天野浩・名古屋大学教授と再訪した最近のオマーン
森元 誠二元オマーン大使/元スウェーデン大使からの寄稿です。
9月10日から13日の間、私は天野教授(名古屋大学未来材料・システム研究所未来エレクトロニクス集積研究センター教授、2014年ノーベル物理学賞受賞者)と共にオマーンを訪問する機会を得ました。前回、2017年の年末にご一緒して以来の再訪です。教授は11日にケンピンスキー・ホテルで250人余りの聴衆を前に講演し、青色LED発見に至る研究成果と目下取り組む課題について説明して好評を博しました。天野教授は青色LEDに次ぐ研究課題として、ワイヤーレスのエネルギー伝導によるInternet of Energyの確立に取り組んでいます。これが実現するとエネルギー・チャージの必要ない電気自動車、将来的には24時間空中に留まることのできるドローンや電気自動車も夢ではなくなります。ただ、その実現には、長距離のエネルギー伝導手段のみならず、受け取ったエネルギーを蓄える小型で軽量の蓄電池の開発を始め多岐にわたる分野の総合的な研究開発が必要になるそうです。興味深いことに、天野教授は規制が多すぎて現状ではドローンの実証実験すら容易でない日本を抜け出て、将来的には広大で規制のないオマーンを候補地の一つとして実験を行う可能性を考えているのだそうです。
講演の反響には大きなものがありましたが、ここでは一つだけご紹介したいと思います。それは15日付のアッルウヤ紙に掲載されたハーティム・アル・タイエ社主兼編集長(国家評議会議員)による論評です。そこでは、「ノーベル賞受賞者である天野浩教授の講演を聞く幸運に恵まれたが、この講演において天野教授は現代のサムライの肖像を見せた。国々の発展は、知識、人的資本、科学研究の3つの柱から成っているが、科学研究こそ国家が関心を寄せる中心事項であり、科学研究なしに成長を遂げることはできない。この点において日本は好例である。日本は第二次世界大戦の結果として広島と長崎に核の攻撃を受けたが、この躓きから立ち上がり、日本は世界の強国のひとつとなるため,復興への決意を新たにしてこれを実現させた。日本の復興は『リモコン』のボタンを押して実現したものではなく、すべての日本国民による真剣な努力が結実したものである。天野教授の2回のオマーン訪問を通して、天野教授は講演会に出席した若者たちに対して、イメージとインスピレーションを与えただけでなく、科学の分野だけでなくあらゆる分野においてプレッシャーに負けずに仕事を継続する能力の重要性を紹介した。」とありました。(以下 現地記事: カーソルをあて、クリックするとアラビア語の記事を読むことができます。)
9月15日現地紙論評
オマーンにおける理工学分野の高等教育機関では、国立大学であるスルタン・カブース大学の他に私立大学であるドイツ工科大学(German University of Technology in Oman)があり、そこではドイツのアーヘン工科大学の協力のもとに人材育成が行われています。前回の訪問以来、名古屋大学とドイツ工科大学との学術研究協力の機運が高まっており、今回我々には名古屋大学から天野教授の卓越大学院プログラム(「未来エレクトロニクスDeployer・Innovator・Investigator協働大学院プログラム」)を担当する准教授と工学研究科の助教がそれぞれ1名、それに事務員1名の計3名が同行し、ドイツ工科大学関係者の間で両大学の協力の可能性についても話合いが進みました。
滞在中は、天野教授と共に旧知のハイサム遺産文化大臣やアブドラ寄進宗教大臣も表敬訪問して旧交を温めることができました。私が所属する東京大学教養学部カブース国王グローバル中東研究講座にはオマーンの実業家モハメッド・バフワン氏の寄贈に係るアラブ学のための専門文庫があるのですが、そこの書籍の充実が話題になった際には、両大臣からそれぞれオマーンの遺産文化、イスラム教イバード派に関する図書を寄贈する用意があるとの親切な申し出がありました。10月下旬には寄進宗教大臣顧問が来日して駒場キャンパスで講演を行う予定なので、その機会に目録贈呈式を行うことが出来ないものかと検討しています。
今回一つ興味深かった点ですが、ドイツ工科大学はその広大なキャンパスに昨年からフィンランド・オマーン学校を創設し、ユニークな初等教育を開始しました。いずれ中等科にも拡大して、初等・中等教育はフィンランド式、高等教育はドイツ式(+名古屋大学の日本式?)の一貫教育を目指すとのことでした。キャンパス内に病院やホテルを設置する将来構想もあるとのことでしたが、壮大な計画には驚かされます。フィンランド学校には、フィンランド人校長や教師の他に英国人やオマーン人の教職員もいるのですが、これに関連して、算数について短期集中でもよいので日本人教師の派遣が出来ないものだろうかと相談を受けました。オマーン側で宿舎や諸手当てなどは用意される筈ですが、クラブの会員やお知り合いの中にどなたかオマーンで算数を教えてみたいという方はおられませんか。
我々の訪問は、丁度シーズンが始まったロイヤル・オペラ・ハウスでの歌劇「カルメン」の観賞で締めくくられました。日本オマーン・クラブの15日付ニュースでも紹介されていましたが、ブエノスアイレス・オペラハウスのオーケストラ演奏の下で歌手、踊り手や合唱団など総勢100名を超える出演者が一堂に登場する舞台は、私がかつて勤務したウィーンやベルリンの歌劇場のオペラと比べても引けを取ることなく、豪華絢爛で大変印象深いものでした。
以下は現地の新聞記事です。クリックすると記事が読めます。9月8日版は2ページ目から英語、9月12日版は全てアラビア語です。