今年度最後の講演会がオマーン大使館で開催されました
2023年2月28日(火)、第4回目の講演会は「『世界のアゲハチョウ図説』発刊とオマーンへの昆虫寄贈プロジェクト」と題し、東京広尾のオマーン大使館で開催されました。世界の全てのアゲハチョウ(全603種)を網羅した『世界のアゲハチョウ図説』の著者である中江信さん(日本オマーンクラブ理事)と昆虫収集家の小原みね子さん(同会員)のお二人によるご講演でした。
講演の前半では、中江さんはチョウの基礎知識や世界初となる画期的なアゲハチョウ図説を発刊するまでの経緯などについて紹介されました。少年時代から昆虫好きの中江さんは、大学時代に読んだ北杜夫の本「谿間(たにま)にて」をきっかけに、フトオアゲハという珍種のチョウを捕まえてみたいと夜も眠れなくなり、アゲハチョウの収集と研究に没頭するようになったそうです。これまでもアゲハチョウの図鑑はありましたが、全種を網羅した図鑑がなかったことから世界初の図説を作ろうと自ら制作に挑みました。仕事の傍ら、50年余にわたり世界各地でチョウを採り続けた中江さん。国内外の友人の協力も得ながら、詳しい解説つきのアゲハチョウ図説を完成させるという偉業を2022年に達成されました。この偉業は蝶柄のデザインで有名な世界的デザイナーの森英恵さんからもたたえられ、完成時にメッセージが寄せられています。
講演の後半は、中江さんが収集した蝶類標本と小原さんが収集した昆虫標本の合計7000頭(「とう」と数えるそうです)を、オマーン国立博物館へ寄贈するプロジェクトについて、お話しされました。
このプロジェクトの目的は二つあり、一つは、砂漠が多く昆虫採集という文化をもたないオマーンの小中学生の生物学教育に有効活用してもらうこと、もう一つは、ほかの中東諸国にはない昆虫標本を観光資源として役立ててもらうことです。小原さんは、オマーンでの交渉活動や昆虫採集の様子などについて、現地の方々とのあたたかい交流も含めてお話しされました。また、オマーンの国王府(日本の宮内庁にあたる機関)を通じてブサイナ王女(生母が日本人・蝶柄が大好き)に両国の友好の象徴となる2頭のアゲハチョウを贈呈したところ、最高のドレスを着て国王府を訪れるよう急に呼ばれ、王女直筆の感謝状を頂いたエピソードなども紹介されました。
会員の活動の集大成を両国友好の証にすべく、日本オマーンクラブの遠藤晴男名誉会長も現地で一緒に蝶々を採りながら交渉した結果、7000頭のコレクションの半数を新しい国立博物館に常設展示、半数をオマーン国内で巡回展示することで合意に至り、プロジェクトは軌道に乗ってきました。これを機会に、日本人の昆虫収集・研究家が世界各国をチョウのように飛び回って集めた迫力あるコレクションの実物を、多くの方に是非現地オマーンを訪れてご覧いただければと思います。
講演終了後には、オマーン大使館のご厚意により、デーツとクッキーにコーヒーがふるまわれ、参加者は久しぶりに対面で親睦を深めることができました。多彩なメンバーを擁する日本オマーンクラブの活動が、両国の友好の懸け橋となっていることを強く実感できる講演会となりました。