講演会「2024年の中東情勢を考える」が開催されました
2024年2月28日、オマーン大使館の厳かな雰囲気の中、中東情勢を考察する講演が行われました。パレスチナの現状を解説する講演者は、東京大学大学院総合文化研究科の鈴木啓之准教授で、会場にはパレスチナ情勢に関心を寄せる多くの参加者が集まり、多少緊迫した雰囲気が漂っていました。
冒頭アルブサディ駐日オマーン大使の強いメッセージが紹介されました。「現在ガザ地区で起こっている事は許し難い」「平和という言葉と行動が伴わなくてはならない」との言葉は、中東情勢が世界的な課題であることを強く意識させられるものでした。
時代を遡り、100年前の第一次世界大戦中のインフルエンザ・パンデミックでの経験に触れることからご講演は始まりました。当時、志賀重昂は「これから世界の情勢は関ヶ原だ」と述べ、中東情勢を「世界的川中島」と表現し、白人と有色人の間の分断を懸念していました。イギリスによるヨルダンとパレスチナの分割から時を経て、2017年末にトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言し5年後に対立が爆発したことなど、写真やVTRを交えながら中東の歴史的背景が詳細に語られました。
その後、鈴木准教授はガザ地区の現状に焦点を当てられました。『10.7』ハマスのイスラエルへの空爆から約5ヶ月が経過し、イスラエル軍によるガザ民間の病院・学校・国連施設への攻撃が繰り返され、多くの犠牲者(ガザの死者3万人、負傷者7万人)が出ているなど、未曾有の人道危機が続いている現実が提示されました。加えて、国際社会や周辺国は足並みが揃っていないことに触れられ、グローバルサウスVS欧米の様相を呈し、国連安保理の決議が出来ず終結への道筋が立たない状況とのこと。
また、鈴木准教授は人道支援の重要性についても言及されました。ガザ地区では、飢餓や感染症が蔓延し、衛生状況も最悪の状態にあると指摘されました。具体的には25万人が呼吸器疾患に苦しみ、安全な水さえも不足し10万人が下痢に苦しんでいる深刻な状況であることに加え、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出停止(国連職員の『10.7』イスラエルへの空爆関与発覚による)により国際支援が絶たれる懸念を強調されました。
さらに、周辺への負の波及効果もあり、イスラエルによるレバノンでの戦闘の拡大や、イエメンでのフーシ派に対する米軍の軍事攻撃などが中東全体に更なる混乱を招いているようです。中期的な影響として、中東和平の前提の崩壊、中東世論の「揺り戻し」/米主導による「中東再編」の行き詰まり懸念が益々広がっているとのこと。鈴木准教授は、「この人道危機が早く終わって欲しい、停戦しなければもっと最悪を更新し続ける」と国際社会に停戦を呼びかける重要性を強調し、講演は警鐘と共に幕を閉じました。
講演後は大使館のご厚意で出されたコーヒーとデーツで、鈴木准教授を囲んでの懇親会へと続きました。